日本看護協会の最新調査によると、病院勤務の看護師における賃金満足度は年々低下しており、2012年時点で25.5％あった「満足」「やや満足」の割合は、2024年にはわずか11.8％にまで落ち込んでいます。不満層が多数を占める中、満足度が低いほど退職意向が高まるという相関も明らかになりました。一方、訪問看護ステーションは病院より賃金水準が低い傾向にあるものの、賞与やオンコール手当の設計によって年収や満足度が大きく変動する構造が見えてきます。

ここでは、日本看護協会の調査データをもとに、病院と訪問看護ステーション、それぞれの賃金満足度の実態を項目別に可視化し、看護師さん自身の働き方の選択に役立つ視点をお届けします。

調査結果が示す、看護師さんの賃金満足度とは

2025年6月に発表された日本看護協会のニュースリリースでは、病院・訪問看護ステーションを含む複数の就業先を対象に、施設調査と個人調査の2軸で実施され、賃金水準や満足度、退職意向との関連性が分析されています。
特に注目すべきは、病院勤務の看護師さんの賃金満足度が年々低下している点です。さらに、満足度が低い層ほど退職意向が高いという相関も確認されており、職場の安定性や人材確保にも影響を及ぼす可能性が指摘されています。

一方で、訪問看護ステーション勤務の看護師さんは、病院よりも賃金水準が低いにもかかわらず、賞与やオンコール手当によって満足度が変動するという、より複雑な構造が浮かび上がっています。

病院勤務での賃金満足度が下がり続ける理由

病院勤務の看護師さんにおける賃金満足度の低下には、いくつかの明確な要因があります。まず、基本給の伸びが非常に緩やかであることが挙げられます。2012年から2024年までの12年間で、基本給はわずか約6,000円（+2.3%）の上昇にとどまっています。
また、夜勤手当の増加も限定的です。2交代制では約1,000円、3交代制では約500円の増加にとどまり、物価上昇や業務負担の増加に見合っていないという声が多く聞かれます。
実際、個人調査では「業務に見合わない」「同年代・同性と比べて低い」といった不満の声が多数寄せられており、賃金への不満が満足度の低下に直結していることがうかがえます。

訪問看護ステーション勤務での賃金満足度を左右する賃金構造

先述のとおり、訪問看護ステーション勤務の看護師さんの賃金水準は、病院勤務者よりも低い傾向にあります。個人調査の就業先別平均でも、訪問看護は病院よりも基本給・総支給額ともに下回る結果となっています。

しかし、訪問看護ステーション勤務の看護師さんにおける賃金満足度は一律ではありません。満足度を左右するのは、基本給に加えて、賞与とオンコール手当です。オンコール手当は、待機手当（定額）と出動手当（回数×単価）で構成されており、勤務先によって支給額に大きな差があります。
たとえば、以下のように月額換算すると、同じ職位でも満足度に差が出ることがわかります。

このように、同じ「訪問看護勤務」でも、手当次第で年収に数十万円の差が生まれ、それが満足度に直結するのです。

賃金の満足度と深く関わる退職意向

調査では、賃金満足度が低い看護師ほど、退職を考える割合が高いことが明らかになっています。そして、病院勤務ではこの傾向が顕著で、満足度の低下 → 退職意向の増加 → 採用・教育コストの増大という「負のスパイラル」が起きているのです。
一方、訪問看護では、賃金水準が低くても、賞与やオンコール手当の設計が丁寧であれば、満足度を保ちやすく、定着率にもつながる可能性があります。

しかしながら、満足度を左右するのは「金額」だけとは言い切れないでしょう。
大切なのは、求人票に記載された「基本給」や「賞与」だけで判断するのではなく、オンコール手当や役職手当の内容、そしてその背景にある働き方のリズムや負担感まで含めて見ていくことで、はじめて「自分にとっての納得」が見えてきます。
賃金の額ではなく、賃金の構造を正しく理解することは、満足度の高いキャリアを築くための、確かな一歩になるはずです。